「この先も、ずっとこのスタイルで気持ちが変わらないなっていうくらい落ち着いてます」
情報が溢れ、移り変わりが速い世の中で、自分にとっても変わらない大切なものを真ん中に据えることは簡単ではなくなってきています。
「すまいづくり=住まい手の生き方の表現」
私たちが普段からテーマにしている、ともすると言葉だけが宙を舞ってしまいそうな表現。Sさんご一家の暮らしぶりを伺ううちに、ぐっと鮮やかに浮かび上がってくるようです。
所在地 | 熊本市東区 |
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完成 | 2019年 |
延床面積 | 98.54 ㎡ 29.80 坪 |
1階床面積 | 56.31 ㎡ 17.033 坪 |
2階床面積 | 42.23 ㎡ 12.77 坪 |
設計 | 村本 HOMEPARTY |
1.インドアもアウトドアも家がいい|ウッドデッキから広がる家族の愉しみ
2.ピアノの音色を家中に運ぶ大きな吹き抜け
3.「古いものと新しいもの」調和が落ち着く段下がりリビング
4.「これくらいがちょうどいい」の基準を教えてくれる収納と動線
5.柔らかに変わりつづける|あちらこちらで想像力があふれだす2階
6.家づくりストーリー|建てる前のワクワクが今も続いている
白いそとん壁にグレーのガルバリウムと木の外壁がアクセントとなっているSさん邸。
ゆとりある庭には芝生と家庭菜園が広がり、ここは本当に熊本市の住宅街なのかなと感じてしまう。
庇の役割もはたす家型の囲いが道路に接する西面のデザインをまとめる
駐輪場から各自の乗り物にまたがり遊び回る子どもたちの姿は公園そのもの。玄関前の袖壁をくり抜いた部分から、こんもりとした芝の丘へジャンプ。人の本能をくすぐるような遊びはエンドレスで繰り返され、のびのびとした暮らしぶりが垣間見られる。
玄関前までまわるガルバリウムの袖壁は、通りから出入り口の視線をさりげなく遮り、大胆にくり抜かれた空間は玄関やウッドデッキへと光を送る通り道にもなるよう設計された。
ウッドデッキには庭、玄関、ダイニングの3方向からアクセス可能
ほんのり囲われたこのウッドデッキは家族みんなのお気に入りの居場所。
この家に住んでから「おでかけしたいとか、どこどこで何したいみたいな欲がわかなくなって」。
5人家族にとって、お出かけより贅沢でリラックスできる過ごし方が家にはあるから。
涼しい時期はウッドデッキにテーブルを出して月あかりの下でご飯やアニメ鑑賞。冬場はストーブを外に出して七輪焼きをしたり。
ステイホームが叫ばれた時期も、庭にテントを張ってお家キャンプを開催するなど、存分に楽しんでいたのだそう。
「お家で楽しく過ごせる。なんでもできるからあまり不満も感じずに過ごせたのかなと思います」。
お家キャンプだと外でアイスクリームも食べられるし、忘れ物もしない。お風呂であったまって寝ることだってできる。いいこと尽くしでキャンプ場から足が遠のくのも頷ける。
「このウッドデッキはすごく良かったです。特別感がすごくありあります」。
外観のデザインと使い方のデザイン、どちらの要にもなっているウッドデッキが、暮らし上手なSさん一家のスタイルにしっくりと馴染んでいた。
自転車置き場に乗り物や外道具をまとめて収納
玄関を開けるとすぐに生活の場が広がるSさん邸。土間に置かれたピアノは心地の良い違和感を放ち、三角形のダイニングテーブル、麻紐で編まれた落下防止のマクラメをはじめとする個性溢れるものたちが共存している。
顔を上げると目が合うのは吹き抜けに掛けられた躍動感の溢れる書。溢れ出すSさんご一家の感性を一瞬にして感じ取れる瞬間だ。
大きな吹き抜けからは自然光が注ぎ、Sさんご一家の世界が目の前に広が入った瞬間につい「わあ」と上がる。
玄関土間はピアノを置くことでただ通過するだけの場所ではなく、ひとつの居場所としてうまく機能しており、使い方を決めすぎないおおらかな空間であることがわかる。
2階は左側からおもちゃスペース、本棚のトンネル、ヌックと続く
撮影時は夕日が差し込んでいた空を切り取る2階の窓は、暗くなると下から見上げた時にちょうど星空を映し出してくれるそう。
浮かんでいるように見える黒い湯布珪藻土で塗られた本棚は、海外インテリアを参考に背面も設えられている
訪れるご友人たちからは、「リラックスできてずっといたい」と言われることもしばしば。
「集えるちいさな居場所が家の色々なところにあるので、大人数が集まっても窮屈にならず憩いの空間が生まれてます」
と設計意図を体現されている様子にスタッフも嬉しげ。
5人家族がゆったり座れる三角形のダイニングデーブルはデザイナーの提案により実現。個性的な形ながら主張しすぎず空間に馴染みぴたりとおさまる仕上がりはオーダーメイドの賜物。
子どもたちが同じ空間を共有しながらもそれぞれに好きなことに集中して遊んでいる様子が印象的でした。ピアノ演奏ありがとう。
キッチンの前の床を30センチほど下げた空間は、寛ぐための場所。玄関から見ると一番奥に配置されていて、落ち着いた空気が流れている。
所謂リビングではあるがテレビは置かず、白い湯布珪藻土の壁面にプロジェクタを投影して、見たい映画やアニメを選んで愉しむスタイル。
段差がりリビングからは外の様子も見渡せる
ウッドデッキをL型に囲むダイニングと段差がりのリビングには、同じ空間の中で過ごすシーンを分けるイメージで計画された。椅子と床座が並ぶと配置によっては噛み合わないこともあるが、天井や床の高さをうまくバランスされ、今ではどちらも暮らしに欠かせない居場所になっている。
丸い座卓はSさんのご実家で戦前から受け継がれていたちゃぶ台をリフォームしたもの。「これを何かに使いたい。板にしてもいいので」というご希望に、デザイナーのアイディアが重なり、脚を外してローテーブルのように使われることなった。
トルコ旅行の際に購入されたというヴィンテージラグとの見事な組み合わせにもSさんのセンスが輝く。
先祖から受け継がれたテーブルや書、遠くの地で使われていたラグ。時を経て様々な場所からSさんのフィルターを通してここに集まった物たちが混じり合い、オリジナルのインテリアが育まれている。
ダイニングの奥に配置されたキッチンは、木と黒のアイアン素材が家の雰囲気に馴染み、工業的な香はまるでない。
設計前にSさんが希望されていたのは「コックピット・基地のような少ない動線で手が届く機能的なキッチン」。
なるほど、よく見るとコンパクトな空間に程よく家電製品や調理道具が良い塩梅に並べられている。
背面の三角屋根型の向こう側は奥から趣味の手芸エリア、壁面収納、洗面・お風呂が一直線の動線で計画された。
お洋服や小物など趣味の手芸が暮らしの中に生きているが、 手芸用品も「入るしこ(だけ)」と決めているのだそう。
扉付きの収納は少ないが、隠してたいものはざっくり米袋に入れて棚に並べるやり方がしっくりきている。
「あんまりおしゃれにしすぎちゃうと自分で自分の首をしめちゃうかなっていうのがあるから。ちょっと自分のゆるさ加減で、収納とかできるところも自分でできる範囲でやってます」。
ミニマリストのようにモノが少ないわけではなく、トータルで色々なものがうまく調和してまとまりのある印象が生まれているのは、Sさんの緩やかな基準をクリアした共通点を持つからなのかもしれない。
「(収納について)包容力があってなにをしても許される感じがありますね」。
今では、棚からものが溢れ始めたら減らすというバロメーターになっているのだそう。「このくらいがちょうどいいっていう基準」が家を建てたことによって家族の間に浸透しているのだなあ。
洗面台は脱衣所と分けて配置
見せると隠すのメリハリある動線設計は子どもたちにも人気。キッチンと背面をぐるぐると回ってかくれんぼをする格好の場所になっている。
2階は完全にこどもたちの世界。吹き抜けをぐるりと囲むように、ヌックスペース、おもちゃスペース、寝室、納戸を簡易的に設えた勉強スペースが並ぶ。
本棚のトンネルの奥には小さなリビングのようなリーディングエリア。好きな本を選んでソファに寝転んで読書。どんなカフェより図書館より落ち着くし、本の世界へどっぷり浸ることだってできる。
「すごいんですよ」と両親も驚くほどのオリジナリティあふれるワールドが広がるのはおもちゃエリア。使い方に特にルールは決めておらずこどもたちの想像力が大爆発、あちらこちらで小さなお人形の世界が繰り広げられている。
手作りのものも含めると、とめどなく増えていくおもちゃについて「(新しいおもちゃを)入れたらお別れするものも選ぶ」という考えを少しずつ話していくことで自分たちの場所を快適に保てる工夫をしている。
最近まで子供用の個室はなかったが、ちょうど長女が個室を欲しい年頃になってきた。つい先日、仮に納戸をを空けてそこを机のように使い、勉強ゾーンにしてみたのだそう。
2段ベッドの奥に二人並んで座れる机ができた。秘密基地のようで楽しげ。
納戸に入っていた物を全て出すことで荷物の総量を把握できたし、特に暮らしに支障はきたしていない。
「いい具合で全然合わせられるんです。不満がないっていうか ここに合わせていけばいいんだっていうのがあるんで」。
家も暮らしも自由な発想で、無理せずゆるやかに。Sさん一家のすまいにはそんな暮らしぶりが表現されている。
はじまりは住宅展示場のモデルハウス
すまいづくりのはじまりは、多くの方がそうするようにモデルハウス訪問から。
HOMEPARTYのLeaf(熊本市南区にあったモデルハウス)やお客様の実例を見て、「どんぴしゃ」だと感じたのだそう。
「段差がりのリビングがよくて、壁の感じも、電球も、何から何まで斬新でおしゃれだなって」。
2011-2017年展示 初代モデルハウスLeaf
それから、阿蘇へ庭木の生産地を見にいくイベントやモデルハウスへの宿泊体験などを通じてHOEMPARTYの想いや人々、建物に触れていった。
「最高だった」と記憶に残っているのは、宿泊体験の前日に阿蘇で汲んだ湧水で朝からコーヒーを淹れ、デッキで飲んだ時のこと。
庭木の生産地を訪れる庭づくり体感ツアー(2016)
「朝日で目覚めて、みんなで掃除して、テーブルに集ってお茶をして。こういう生活できたらいいなっていう憧れの暮らしをイメージできました」。
あるのは「楽しい未来のみ」ただ幸せな打ち合わせ期間
HOMEPARTYのいえづくりは、はご家族のこれまでの歩みを振り返っていただき、これからの暮らしをどうしたいのか、をヒアリングシートにご記入いただくことから具体的なプランニングが始まります。
「ヌックって書いてあって。初めてそのワードを知りました」と担当デザイナーの村本。
今ではよく見かけるワードだが、感度の高いSさんは海外のインテリアなど多くの情報収集をされヒアリングシートを埋めてくださっていた。
打ち合わせはとにかく楽しくて「わくわくすぎて幸せ〜って思いました。楽しい未来しかないから」と懐かしく振り返る。
デザイナーと一緒にプランをつくりあげていく過程は、「毎回課題を突破していく感じで進んでいきました」。打ち合わせに行くと予想していた以上のものが必ずできているのがとにかく楽しみだったそう。
「こんな感じですか?って出してくださるプランが毎回すごく良くて。色々な情報を見て盛り盛りになっていく要望を、村本さんがうまく引き算をしてまとめてくれました」。
打ち合わせが終わることには寂しいと思うほどに考えている時間がすごく充実していたそう。
「来る人からもいつもすごいね、いいねって言ってくださるから、いやデザイナーさんのお仕事の成果ですって。一緒になって『すごいね』って言ってます」。
麻紐で編まれた見事な落下防止ネットにスタッフ一同感嘆
これからも、このスタイルでワクワクしながら暮らしていける
取材時はご入居されて3年ちょっと。
これからやってみたいことを聞いてみた。
「打ち合わせのとき一緒に(デザイナーが)生活スタイルを考えてくださったような気がしていて。だから(家が暮らしに)定着した感じがあります。この先もずっとこのスタイルで気持ちが変わらないなっていうくらい落ち着いてます」。
今は、模様替えしたいとか、ここを変えなくちゃとか、思うことなく、なにも考えなくてもこの生活スタイルでわくわくしながら暮らしていける気がしているのだそう。(あるとすれば、思いがけずデスクスペースになった納戸にコンセントを増やしたい、くらい。とのこと)
暮らしの基本となる場所が整うと、周りの色々なことや考え方まですっきりとまとまる。
「すまいづくり=住まい手の生き方の表現」。
暮らし方を通して家族のスタイルを表現されているSさんご一家の姿に、私たちも襟を正される思いがした。
Sさんファミリーのみなさん、取材・撮影にご協力いただき本当にありがとうございました。
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